名古屋高等裁判所 昭和25年(う)2190号 判決
よつて原審が取り調べた証拠及び原判決挙示の証拠によれば、被告人等が奥村正義から払戻手続の依頼を受けて預つた郵便貯金通帳の名義は、奥村正義の名義でなく、同人の兄奥村正勝名義であつたことが明らかで、この点について、原判決は、事実を誤認したことになる。而して奥村正義が兄正勝の郵便貯金通帳を擅に持ち出し、これが払戻を受けようと企て、これを被告人等に委託したので、被告人等は、右通帳を利用して金一万八千円の払戻を受け、これを奥村正義に引渡すべく保管中、擅に自己の用途に費消したのであるから、被告人等の行為は、奥村正義に対する関係においては、横領罪が成立するものと解すべきものである。右郵便貯金通帳を奥村正義が窃取したものであり、右通帳を利用して払戻を受けるには、印章を不正に使用したり郵便局係員を欺罔したりして、詐欺罪等を構成することは考えられるけれども、被告人等と奥村正義との間においては、不正に取得せられた一万八千円であるが、これについて委託関係が成立して居り、これが信頼を裏切り、被告人等が擅に費消すれば、横領罪が成立するものである従つて右郵便貯金通帳の名義を誤認したとしても、判決に影響することはない。少くとも右誤認が被告人のため不利益となるとは考えられない。又被告人等が右通帳により払戻を受けるについて、詐欺罪が成立しても、前記のように別個に横領罪も成立する余地があると考えられるからこの点についての論旨も理由がない。被告人等が奥村正義から払戻の依頼を受け、郵便貯金通帳を預れば、通帳自体を保管しているばかりでなく、払戻を受けた金員も奥村正義との関係においては保管を委託されているものと解すべきであるから、原審が右払戻金の費消横領があつたと認定したのは相当で、論旨は理由がない。